少年はこの地からかの地へ
翼を広げて飛び去ってしまった
私は何も言えぬまま





ただ扉を閉めた







Last My Heart
〜残された心〜







いつも歩き慣れているはずの廊下を、今日は少し重い足取りで歩く
廊下に己の足音だけがコツコツと響いている
いつもならば作業場で囚人たちの仕事を監視している時間なのだが、今日は一人の少年がこの刑務所から出所する
その最後の見送りだ
「ガイズ、支度はできたか?」
開け放たれた牢屋の中では、ガイズが少ない荷物の整理をしていた
私が声をかけたのに気が付いたのか、不意にこちらに顔を向ける
「看守さん」
ガイズは明るい顔で、ボストンバックを片手に中から出てくる
「2度と戻ってくるなよ」
冤罪で投獄された彼だ、そんなことはないだろうとは思うが
「はい」
ガイズはいささかそわそわした感じで、何処か落ち着かない
今まで助けてくれた仲間のことが気になるのだろう、そんな彼に私は最初で最後の
そして今の彼が一番喜びそうな『プレゼント』を彼に渡した
「別れの挨拶をしてこい」
すると彼は、まるで豆鉄砲を食らった鳩のように驚いた
「え?」
そんな彼に私は苦笑を禁じ得ず
「そのぐらいの心遣いぐらいは持ち合わせているさ」
パァっと明るくなった彼の顔にさらに苦笑を深めた
「はい!」
ガイズは荷物をその場に放り投げると、急いで仲間たちの元に駆けていった
私は軽くため息をつくと、ほおりだされた荷物を持ち上げた
「元気なものだな」
「そう言うお前は元気がないようだな、シルヴェス」
「ジャーヴィー」
振り返れば、仕事仲間のジャーヴィーが壁に背中を預けて立っていた
「別に………そんなこともないと思うが………………」
すると彼は少し苦笑して
「まぁ、お前がそう言うのならいいさ」
ジャーヴィーはそのまま俺の方に背を向けて歩いていった
誰もいない牢獄の中、一人になってしまい私は今まで彼が使っていたであろうベッドに腰掛けた
一人になるといろいろなことが記憶としてよみがえってくる
彼は初めてここに来たときからそこら辺の囚人とは少し違っていた、絶望しているわけでもなく、諦めているわけでもなく
ただひたすら熱い炎みたいなモノをその瞳に宿していた
少年はただひたすら無罪を主張し、この刑務所の中を駆け回っていた
そして今、その行為が正しかったことを証明し、本来自分のあるべき場所へ帰る
「さて、それじゃあそろそろ迎えに行くとするかな」
そう行動を固定する言葉を言わなければここから動けないような気がした
彼の荷物を持ち彼がいるであろう作業場のところまで持っていく
彼は今までの仲間、友たちと最後の語らいをしていた
「ガイズ」
名前を呼べば彼は振り向き、急いでこっちに走ってきた
「他のものはきちんと作業に戻るように、それじゃあ行くぞ」
私は彼に荷物を渡すとこの監獄の外へ向かって歩いていった………





外は雲一つ無く晴れ渡り、夕焼けが綺麗に切なく光を放っていた
「では。お互い2度と顔を合わせないことを祈ってるから」
いつもの同じこのてのシュチュエーションで、私はいつもと同じ言葉を淡々と述べた
ハズなのに
心は何処か寂しかった
「はい」
そう言った彼の瞳はとても輝いていて、綺麗だと思った
彼は、にこっと笑ってこの監獄に背を向け走り出した
少し向こうに何度か見かけたことのある彼の弁護士がいた
その人に礼をすると
私は重い扉を名残惜しげに閉じた





あれから数ヶ月が経った
私たち看守一同はその後ガイズの弁護士のルスカによって次々に暴かれていく主任たちの悪事が理由でこの仕事を辞めざるをえなかった
特にこの仕事に執着があるわけではないのだが、あの少年とのつながりが着れるようで
少し心が痛んだ
私は幾日も職を探して街を歩き回ったがあの監獄で働いていたと分かれば、皆当然のように拒絶する
ジャーヴィーから一緒に田舎へ来ないかと誘われたが、私は大丈夫だといってその話を断った
そしてまた今日もあてもなく街を歩き回っていた
その時己の肩に誰かがぶつかってきた
「あっ!すいません」
「いや、こちらこそ」
そう言って、零れたライムを拾い上げ、相手に手渡し………
「シルヴェス、さん………………」
「………ガイズ」
相手は少し警戒したように体を強張らせていて、私は苦笑せずにはいられなかった。
「なんでこんな所にいるんだよ、今仕事の時間じゃねーのかよ」
彼は、ライムを受け取ると一歩後ろに下がりそう問いただす
「あぁ、あそこでの仕事は………まぁいろいろあって解雇されてしまったんだ」
その理由はいくら彼でも知っているだろう
「ふーん、でも自業自得だろ」
そう言われると、痛い。
確かに看守のしてきたことをとがめなかった私たちも悪いが、だが…………
「ガイズ!」
不意に後ろの方から声がして、私はその方を振り返る
「ルスカ!」
彼は嬉しそうに私の脇を通り抜けて彼の元まで走っていく
彼は私の存在を確認すると、やはり少しイヤ総なめで私の方を見つめてた
「何をしてるんですか、こんな所で」
「いえ、私は別に………」
曖昧に答えたら、彼の癪に障ったのか静かな怒りを込めた言葉が返ってきた
「こんな真っ昼間に、町中で何をしてるかは知らないが、これ以上がいずに近づかないでくれないか、看守さん」
明らかに敵意を抱いた瞳で睨まれ、私は胸が痛くなった
ガイズが同じような瞳で見たからかもしれない
彼らが立ち去ろうとするところを引き留めてしまったのは、この胸の痛みを取り除きたかったからかもしれない
「少し、待ってくれ。彼と貴方と話がしたい」
私は二人を手頃な喫茶店に誘った
もちろん二人ともいい気はしなかったが、仕方なくといった感じでついてきてくれた





「で、俺たちをお茶になんか誘って何の話をすんだよ」
注文の品もそこそこに、私は彼らに話しだした
「こんな話で、あなた達が納得するとも、その警戒心が解けるとも思わない、別に聞き流されてもかまわない、でも知ってもらいたいこともある」
私はそれから一呼吸置いて、ゆっくりと話し出す
「私の父も、先までの私と同じようにあの刑務所の看守をしていたんです
父はほとんど家に帰ってくることなく仕事を続けていました
私は幼い頃、父の仕事がとても嫌いだった、仕事だといっても囚人たちと共に大半を暮らしている父を軽蔑さえしていた
そんなある日父が私に言うのです、私はこの街を守っているのだと私は街の皆のためにあそこにいるのだと
看守という仕事は確かにあまり聞こえがいいものではない、だが誰かがやらなければ犯罪者は逃げだしこの街は強奪と不公正に飲み込まれてしまう
皆が嫌がる仕事ほど、誰かが必ずやらなければならないのです」
私は落としていた目を上げガイズ少年の顔を見る
「ガイズ」
「なに?」
「君に一つだけ行っておきたいことがあるんだ」
私は笑いかけて
「君が私を嫌うのは確かに当たり前だ、だが。もしも私たちがあの刑務所よりもっと早く出会えていたら二人は友になれたかもしれない。そうは思わないか?」
「…………うん、俺難しいことはよくわかんないけど、看守さん…………シルヴェスさんの言いたいこと何となくなら分かるよ」
「よかった」
私は本当に安堵の色を浮かべた
「もしもこの先、私のような輩に出会ったら、その人たちを許してやって欲しい。彼らとてその仕事をよく思っていなかったりする者もいるからな」
「…うん………」
次に私は彼の隣にいる弁護士の方を向いた
「貴方と私は同じ犯罪者をあつかった仕事に就いていながらも、貴方は光を浴びて誰からも尊敬された
私はあの闇のような監獄の中で犯罪者たちと暗い時を刻んだ。だけど私も貴方と同じようにあの仕事に誇りを持っている。父から受け継いだあの仕事に」
「…俺は、ついガイズのことになって何も考えていなかった…………すまなかった」
謝る彼を見て私はどうするかとあわてふためいてしまった
「あ………いや、私は別に屈服させようと思って言ったわけではないから、そんなことをされると……………」
どうするべきかとあわてふためいている私に、隣にいるガイズが助けを出してくれて
「大丈夫だよルスカ、この人優しい人だから」
私のためではないにしろそう言ってくれるガイズに私は照れを隠せずにいた
「あぁ、もうこんな時間になってしまったか、長い話をしてしまったな。話を聞いてくれてとても嬉しかったよ、ここの会計は私が誘ったのだから私が持とう」
そう言って立ち去ろうとしたとき
「そうだ、お詫びといっては何だが、私からも君を雇ってくれるよう知り合いに持ちかけてみよう。よかったらまた私の家に来るといい」
そう言って彼は住所の書いてある紙切れを私に手渡してくれた
「すまない、どうもありがとう」
そして私はその店を後にした





あれから数週間がたった
私はルスカ弁護士に紹介してもらった彼の家の側のレストランでウェイターとして働いている
収入もそれなりなのだが、今までやっていた仕事も仕事なのでいかんせん不慣れで仕方がない
……カラン……
「いらっしゃいませ」
扉の開く音がして、そちらの方を向いて頭を垂れる
「やぁ」
「食べに来たよ〜」
客はルスカ弁護士とガイズだった。
「あぁ、また来てくれたのか」
また、そうこんな言葉が出てしまうほど彼ら特にガイズはこの店の常連だった
彼の仕事上、遅くなることも多く、不定期な生活のためよくここに食べに来てくれるのだ
「なんだよそれ、まるで来て欲しくなかったみたいに聞こえるぜ」
そう言ってガイズが笑った
「ご注文は?」
「俺は何時もと同じやつにライスつけて!」
「そうだな、行った先でイロイロと食べたから…………とりあえずビールだけで」
「ルスカ〜、ちゃんと食べないと体調悪くするよ!」
そう言ってガイズは楽しそうに笑い、ルスカ弁護士も苦笑を浮かべる。
それを見た私も優しく笑う
この店には今日も明るいほほえみが絶えない











あとがき
出てきましたシルヴェス!
私の大好きなキャラクターの中の一人です
もう彼の照れた顔と言ったら……………(爆)
今回の小説は中盤のシルヴェスの
『もっと早く出会っていたら私たちは友になれたかもしれない』
みたいな言葉を言わせたいだけに書きました(笑)
なんかやっぱノロケ??
とか久々にサイトが更新できてほっと一息です




























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