『愛していたのか』
そう聞かれると、わからない
何よりも一番に愛する事なんて知らない
誰よりも大切に愛されることなんて知らない




でも確かに
そのとき貴方と共に死の路を選ぶことが




何より自然なことで
(怖クナイワケジャナイ)




何より幸せなことだった
(デモ貴方ガ傍ニイル)







   
微笑みの彼方






その報告を受けた元堅はすぐに城から少数精鋭の兵を駆り出陣した
最近城に来るまでの街道で陳軍に不審な動きがあり、見張りを出させていた
その兵からの連絡があった


『先程確認できました数はざっと三十人、こちらに向かってきております!しかし……』
『なんだ、言ってみろ』
『妙なのです』
『妙?』
『はい、我々もてっきりこの城に来るのかと思ったら、まったく違うわき道にそれて行ったのです』
『それは、どの辺りだ』
『はい、つい先日青樺殿を見かけた……あっ!』
『青樺を見かけた?どういうことだ元堅!』
『貴紗絡…それは……すまん!今は言えねぇ!!』


そういったきり城を飛び出してきた元堅は、腕の立つ十数人の部下を連れて唯一頭の中に浮かぶ場所目指して馬を駆った




「思ったとおりだ…」
史鋭慶の別荘の前には陳軍がただならぬ気配で居座っていた、緊張しながらもどうもこの分だとここで夜営をする気らしい
「にしても、陳軍の奴らなんでこんなところで夜営なんて……」
「うるせぇ!黙ってろ!」
ついに史鋭慶を捕まえに来たのか、それとも青樺を狙ってきたのか……
するとその瞬間、一瞬にして夜営があわただしくなった
きっとこれ以上の好機はないだろう
「今しかねぇよな、よし突撃だ!!」
皆もそう思っていたんだろう、一気に陳軍に向かって飛び出した
こんな山奥で敵襲があるとは思ってもいなかっただろう敵は総崩れとなり決着は一気に片付いた
「よーし、お前が大将だな?」
片目の髭を蓄えた男は、怯えた様子で両手を挙げた
「さっき騒がしいようだったが、何かあったのか?」
「おっ、お前には…関係………ヒィィッ!」
元堅は怯える大将の喉仏に剣を突き刺すと、不敵に笑った
「わかった!!言う!言う!!……ここっ、この、屋敷の主が…若い男と一緒に……死んでたんだよ!」
「なっ………」
正直答えが出なかった
ここの屋敷の主、それはいまや史鋭慶以外考えられない
そしてそんな彼のそばにいるのは……
「青樺…!!!!」
元堅は剣を鞘にしまうと屋敷へと駆け出し中に土足で上がりこんだ


「せ、いか……」
その日の月は雲に隠れていたはずなのに、いつの間に晴れたのだろうか?
眩しいくらいに明るい月が皮肉にも地獄絵のようなその部屋を、暴くように照らしていた





目の前には紅の海に沈む二つの骸
月明かりに照らされた二人の体は青白く、その紅とのコントラストが美しく見えるほどだった。





「どうして…、何でだ……何でお前が死ななきゃならねぇ……青樺…………」





彼らの傍らに手をつけば、二人の血がパシャッと音を立てた
「魔がさしたか、魔に取り込まれたか……愛しい君は、彼の地へと逝く……」
元堅の後を付けてきたのか、いつのまにか入り口のところに呆然と立ちすくむ貴紗烙がいた
「青樺……青樺………」
しかし元堅はその存在に気づくことは無く、愛しい人と彼を抱きしめる男を凝視する。
「史、鋭慶…貴様は……貴様は…………!!」
元堅は怒りか、それとも悲しみにか、大きな体をわなわなと震わせ、腰の得物に手をかける
「貴様は!!また、俺の大切な人を……俺の家族だけでなく、青樺までも!!!」
それを一気に引き抜くと大きく振りかざす
「元堅!!」
「許せねぇ…!貴様をぜっってえぇ許せねぇ!!!ぅうをおおおおおっ!!!!!」
そしてその剣先はまっすぐ史鋭慶の首に向かって振り下ろされた




ガキイィィン!!




元賢は一瞬目の前で起こったことが理解できず、何故自分の剣が弾かれたのかが不思議だった
「無駄なことは止めておけ、元賢」
「貴紗烙……いつからいた…………」
「ちょっと前からね」
「なら…なんで止めた!」
怒気を含んだ荒々しい元堅の声がピリピリと空気を揺らす
「お前は、青樺が殺されて悔しくねーのか!悲しくねーのか!!」
「そうだな、この男を蘇えらせて、この世に無いような拷問の末に殺してやりたいくらい憎らしいよ!」
「じゃぁなんで!!」
「青樺が……、この男と共に逝くことを望んだからだ」
「青樺が?」




「よく見ろ……笑っているじゃないか。青樺はこの男を抱きしめて、抱きしめられて……幸せそうに………笑っているじゃないか」




確かにその顔は、今まで見たことが無い、安らかで幸せそうな笑顔で………微笑んでいた
「青樺が望んだことだ、俺には口出しできないさ………」
「だけどな!!……って、貴紗烙……お前っ………」
振り向いた貴紗烙の頬には幾つもの涙が止め処なく流れていた………
「お前…泣いて……」
そこにいた誰もが、身動一つ、できなかった
息をすることも、もしかしたら心臓を動かすことさえ出来ずにいたのかもしれない。
「………そんなに、青樺が大切だったのか?」
皮肉でも言うつもりだったのか、慰めのつもりだったのか、元堅の口からそんな言葉がポロリと零れた
「あぁ、愛していたよ。誰よりも」
それは元堅に言った言葉だったのか、それとも幸せに微笑む彼の人に告げた言葉だったか
「………」
「だからこそ、青樺の望むとおりにしてやりたい」
その言葉を境にあたりは静寂に包まれ、貴紗烙の真剣な顔にはただはらはらと涙が零れ落ちていた
「なら…あの場所がいいだろうな」
「元堅?」
「二人をさ、都の見えるあの丘に埋めてやろうって、思ってな」
「…そうだな、そこから俺たちが皇帝を倒すのを、高みの見物でもしててもらうか」
そういった貴紗烙の頬にはもう涙はなく、いつもの皮肉の笑みがうかんでいた。
「そうだな」
そして横たわる二人を見て元堅はずっと自分の中にあった疑問を朽ちにしてみた
「史鋭慶は…青樺を愛していたんだろうか?」
「さぁな、ただ一つ言えることはこれが二人の望んだ結果だったてことさ」
答えを与える者はそこにはおらず、ただ死の臭いだけが皆を現実へと戻した






それからしばらく後のこと、陳王高は倒され、人々はあるべき姿へと変わっていった
しかし彼らは知らない
この国を誰よりも愛した青年のことを
かつて神童と呼ばれた青年のことを



ただ丘の上に咲き誇る草花だけが、その二人のことを今でも優しく包み込んでいる








おわり



あとがき


ちゃんとした帝千SSです(笑)
鋭慶の心中エンド後、こうなって欲しいなーというIF話です。
鋭青……すきですねぇ
帝千の中で一番好きなカップリングです
これからも鋭青中心に書いていこうと思いますので
よろしくお願いします
































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