陳王高を倒してから十年
この国の全てが未来に向かって歩んでゆく中
俺は時を止めてしまった二人の青年を知っている






永遠なる怠惰の中で






今日は、この国の建国十年を祝う祭りが開かれている
誰もが喜び、誰もが浮かれ楽しんでいる
あのどこかはかなげな皇子は、いまや立派な皇となり、后と、二人の皇子に恵まれた
誰もが、そう誰もが喜び楽しんでいた

「元堅、どうした?一人暗い顔をして」
「ん?貴沙烙か」
「せっかくの祭りなんだ、もっと陽気に楽しめよ」
「そうだな!」

貴沙烙は俺の隣に座り込んで酒を注ぐ

「こうして貴様と酒を飲み交わすのも久しぶりだな」
「あぁ、十年前は毎日のように飲み交わしていたのにな〜、懐かしいぜ」
「こうやって区切りの祭りなんてやっていると、本当に懐かしいな」

貴沙烙も当時のことを思い出しているのか、酒を飲む手を止めて、その水面を見つめながら目を細める

「俺がいて、お前がいて、そして…青樺がいた…………」
「貴沙烙」

俺が貴沙烙に呼びかけると、彼は杯の中に入っている酒を全てあおり俺に向かう

「どうせお前は、この後青樺の墓に報告に行くんだろ?」
「そうだな」

すると貴沙烙は急に真剣な顔になり

「なぁ、元堅。あれからもう十年もたった…そろそろ青樺がどこに眠っているか、教えてくれないか?」
「それは……」

十年前のあの日、俺は仲間たちに青樺が死んだと告げた
当然あいつらは青樺の墓参りをしたいと言った、だが……

「悪いな、こればっかりは教えられないんだ。青樺の最後の望みだからな」

「そうか……」

俺はさびしげな貴沙烙の隣を立ち上がり、王宮を去った










俺には誰にも言っていない秘密がある
俺が一生をかけて守ると誓った皇にさえ、告げていない秘密だった









その足で俺は馬を駆りあの山へと向かった
それは俺たちが反乱軍の時代、ねぐらとして使っていたあの山城へ行く途中にある

「あいつら、元気にしてっかな」

あいつらが今もあそこに住んでいることは、誰にも知られてはいけない、俺が墓まで守り通さなければいけない秘密だった



















夜半、俺は月明かりだけを頼りに獣道をひたすら歩き、懐かしい場所が目の前に広がった

「変わってねぇな、何もかも…変わらなさ過ぎだぜ」

その鬱蒼と草木が茂る山奥にぽつんと開けた土地、そこには月光の中、幻想的に浮かび上がる屋敷が立っていた
ここには史鋭慶と青樺が、今も二人きりで暮らしている
立派な木の扉をくぐり、その庭へと入っていく

「おっと………」

そこには既に先客がいて、薄絹の寝間着を纏った青樺が月の光を浴びて立っていた

「誰だ……」

俺の気配を察したのか、青樺の目線が俺のほうへ移動してくる

「元、堅………!」

青樺は驚きに目を見開くも、すぐ前のような笑みを浮かべてくれた
こうしていると、本当に何も変わっていないように感じる
ずっと王宮にいた俺さえも、十年前とまったく変わっていないのではないかと錯覚してしまうほど



青樺は、……正しく言えば青樺と史鋭慶は、今も十年前となんら代わりのない姿と肉体でこの屋敷に暮らしていた



この異常な事実に気づいたのは五年前、一年に一度様子を見に行っていたおれは、その年も二人の様子を見にこの屋敷に来ていた
『よう、青樺。今も全然変わりないな!』
そう声をかけた一言に、俺は違和感を感じた
確かに、青樺と逢うたびに過去を懐かしんで、青樺を幼く見ていた
だがそれだけではない














変わらない、変わらなさすぎていたのだ、青樺は……














二十歳でまだあどけなさが抜け切れていないほどの青樺
五年もすればさぞ逞しい青年へと育っているのだろうと考えていた
それなのに
何も変わらないのだ、五年前分かれたときの姿と
そしてさらに五年、十年たった今でさえ、その姿は変わらない


陶器のように白い素肌も


まだどこか少年の面影が抜け切れていない顔立ちも


華奢だが鍛えられた滑らかな身体も








何もかも………








「本当、変わりないな……青樺」
「元堅も、元気そうで。あれからまた一年たったのか」
「……いや、あれからもう…五年たった」
「そっか…五年か……」 

こんな何気ない一言が、もう俺と彼が別の刻を生きているのだという事実をいやおうなしに感じさせられてしまう

「本当、もう、俺たちと一緒には、死ねないんだな」

今でも後悔する、あの時強引にでも青樺を連れ出しておけばよかったと
そうすれば、こんな妖物じみた姿にならなかったのに

「そんな顔しないでくれ、元堅…俺は今でもあの時の選択を間違えたなんて思っていないんだから………」

青樺はあの時とまったく違えることなく、この場所にいたいのだと言う

「青樺……」
「俺たちは、これからもこの屋敷と共に、この自然と共に…生きていくんだと思う」








「永遠に……か?」








「永遠に……だ」








そういう青樺の顔は、とても幸せな表情で、俺は胸が詰まった
青樺がふと後ろを向くと、そこには縁側に立っている不機嫌な顔をした史鋭慶がいた

「史鋭慶!」
「もう話は終わったのか?」

青樺は史鋭慶のもとまで走っていくと、その身体を宝物を扱うかのごとく、愛おしそうに抱き上げる
きっと史鋭慶にとって青樺自体が宝なのだろう

「お前も元気そうだな、史鋭慶」
「貴様もな、孟元堅」

俺に対する態度は、そっけないが、青樺に対する行動には並々ならぬ愛しさが伝わってくる

「へっ、幸せそうな顔しやがって。その顔を皇に見せてやりたいぜ」
「皇、か…、今王宮内はどうなっている」

史鋭慶はやはり皇のことが気になるのか、神妙な顔で俺に尋ねてきた

「あの方は良い政をしている。それに、二人の皇子にも恵まれたしな!」
「そうか、子を生されたか……」
「あぁ………」

俺たちの間に、わずかな沈黙が流れる
俺は風に誘われるように天空を見上げると、漆黒の空は徐々に白み始め、世界が朝へと変わり急いでいる

「それじゃ、俺はそろそろ帰る。もう行かねぇと、朝までに都につけないからな」

そういうと青樺は史鋭慶の腕の中からするりと降り、縁側にストンと着地する

「そっか、それじゃぁまた。いつでも来てくれよ、元堅」
「ああ!」

やさしく微笑む青樺に、俺は後ろ足を引かれながらもその場を後にした
前はただがむしゃらに青樺を助け出すことしか考えていなかったけど
今なら少し彼らの関係を理解できるような気がした



















「後悔は、していないのか………?」

元堅が去った後、史鋭慶が後ろから俺を抱きしめてそう言った

「何を?」

史鋭慶が言わんとしている事はわかったけど、俺はあえて聞き帰してみた

「俺だけの物になると選んだことを、だ」
「後悔していない」

俺は、俺の前に回された史鋭慶の腕にソッと己の手を重ねて答えた

「だが、俺がこの俺だけの世界に連れてきたせいで、俺とお前は、もう普通の人間ではなくなってしまった」
「そうだな」

この変化に気づいたのはいつごろだっただろうか?
ずっと食料などの面倒を見てくれていたお爺さんが亡くなり
それから本当に外界とのつながりが途切れてしまった
それを境に、食物をとらなくなり、いつしか食物を必要としない、食べずとも生きていけれる身体となってしまった





そして俺たち二人の刻は、十年前からずっと動かないままだ





「死という、人として得られたはずの正当な権利を奪われ、それでもお前は……」
「なら史鋭慶は、いまさら俺を捨てるのか?捨てられるのか?!
俺と共に生きてくれる人は、史鋭慶しか残されていないのに……………」

おれは史鋭慶の腕の中で身体の向きを変え、力いっぱい史鋭慶を抱きしめる

「青樺………」



「これから先、どうなるかなんて全然わからない、本当に妖物のようになってしまうかもしれない……
それでも俺は絶対史鋭慶と共にいる。史鋭慶の命が先に尽きてしまったとしても、俺も絶対一緒に死ぬから!!史鋭慶を離さないから!!!」



「青樺…今更捨てられるものか、人の摂理を全て曲げてまで青樺と共にいる事を望んだのだから………!!」



俺には史鋭慶しかいなくて、史鋭慶には俺しかいなくて
お互いが、お互いだけ全てで
他には何もいらなくて………
「青樺……」
「史鋭慶……」
俺たちは、お互いの思いを通じ合わせるかのように口付けをして、白んでいく空の下ずっと抱き合っていた













たとえ永遠なる怠惰の中であっても
史鋭慶がいれば恐れることなど何もない
史鋭慶さえいれば、他には何もいらない………














「永遠に一緒だ、史鋭慶」
「どんなに遙かなる未来も、お前の隣にいる事を誓う。青樺………」





















あとがき

ゴールデンウィーク企画第2弾!!
久しぶりの帝国更新、史鋭慶×青樺
そしてまたしても元堅が……
出しゃばっておりますねぇ
私的に元堅は史鋭慶にいつも良いところを持っていかれる
あのポジションが気に入っています(笑)
優しい男だからね、元堅は(苦笑)

えー、そして今回は何かやってはいけないことをやってしまった気が………(滝汗)
かなりパロッてますね(爆)

恥辱END後、永遠の命なるものを手にした二人です

ここまでやるのもどうよ!
とも想いましたが自分の気持ちに正直に(笑)書いてみました
自分は凄く楽しかったです!
自己満足でゴメンナサイ

実はこの話………まだ続きがあったりして…………………





































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