彼らから与えられた部屋のベッドに俺はごろんと横になった

「あ〜、疲れた……」

この屋敷に入って、史鋭慶から言われたことは三つ
不用意に屋敷の中を出歩かないこと
必ず用意された客間を使うこと
自分の寝室には絶対近寄らないこと
この三つだった
こんな山奥にはもちろん電気などなく、ろうそくの光が頼りなく光り、部屋の中を照らしていた

「スオウ、いるか?」
扉の向こうから青樺の声がして、俺は勢いよく飛び起きる

「青樺?入ってきていいよ」

青樺は明かりと、片手に包みを持って部屋の中に入ってきた

「これ、明日の食料。林檎とかあんまり駄目にならない果物を入れておいたから」
「果物?もしかして、山の中まで行って採ってきてくれたのか?」
「そうだよ」

そういわれると、自分は青樺にとって特別な気がして嬉しかった

「でも、ずっとこんな山奥で暮らしていて、大変じゃないのか?」

そうだ、そもそもどうして青樺はこんな山奥で、しかもあの史鋭慶とか言う男と一緒に暮らしているんだ……
「どうだろう、もうずっとここで暮らしているから」
「ずっと……?」
「そうだけど?」
「外に…出たいと思ったことはないのか?」




それは無意識に口から出た言葉だった

彼を外へ連れ出したい

沢山の世界を見せたい

沢山の笑顔を見たい

沢山与えて



全てを奪いたい



「初めは沢山迷ったけど、今はこの暮らしで十分だ」
「そうか…」

それは微かな、絶望

「それじゃ、俺もう行くから。早く行かないと史鋭慶がうるさいんだ」

そんな言葉だけ残して、青樺はこの部屋から出て行った
俺は硬いベッドの上にまた寝転がると、硬く眼を閉じた
もう俺の頭の中では、当初の目的などどうでもよくなりつつあった
それからしばらく、いろいろな事を考えふと気を抜いた瞬間、とてつもない空腹と喉の渇きを覚えた

「そういえば、夕飯食べてなかったけな」

リュックの中の時計を取り出すと、時間はもう十時を回っていた
この時間では、あまり夕飯は期待できそうになく、それでも喉の渇きだけでも何とかしようとベッドを立ち上がった

「あんまで歩くなって言われてるけど、仕方ないな」

あまり足音を立てないように井戸まで向かう
そしてたどり着いた井戸で喉を潤しているとき、屋敷の中から微かに悲鳴のような声が聞こえた

「なんだ?」

俺はその声の聞こえるほうへ足を運ぶ

「行けばわかるか」

あんまり屋敷をうろつくなと言われている手前、どうしても音を立てないように歩いてしまう

「ここらへんだよな?」

広い屋敷の中でも、一際濃密な空気が漂う一角に足を踏み入れ、その突き当りの部屋から明かりがもれるのが見えた
そしてその部屋の扉を恐る恐る開けた



  女は男に言いました
  「決して覗いてはいけませぬ」
  それでも男は
  己の中の欲望に負け
  その扉を
  開けたのです



扉の中でおこなわれていた出来事に、俺はただただ目を見張った

「やだ!史鋭慶…もうムリ!!」
「駄目だ、あの男にお前を触れさせた罰だ」

青樺は史鋭慶に押さえつけられ、その裸体を大きなベッドの上に横たわらせていた

「やっ、めて…ぁあああ!!」

その時、唐突に思ってしまった



彼を連れ出さなくてはいけない
この閉ざされた場所から
それは使命にも似た想いだった



俺はソッと扉を閉めると、自分にあてがわれた部屋へ戻った
それでもまだ、心は高揚し
今だったらどんなことでも出来るような気がした
俺こそ神になったような気がした

「青樺、君を絶対に自由にするからな」

俺はその日一睡もするこはなく、朝を迎えた
まだ太陽が昇ったばかりで、俺は支度を整えると部屋を出た

「あっ、スオウ」

そう言って、青樺は俺にほほ笑みかけた
もう、お前しか見えない

「早かったんだな……スオウ?」

俺は、彼の手首をぎゅっと握った




「青樺も、一緒に行こう。あの男が来ないうちに」




「何言ってるんだ?」
「青樺も一緒にこの山を降りよう、俺が外の世界を見せてあげる」

青樺はあからさまに困惑したような顔をした
それでも俺は構わなかった

「青樺がずっと、こんな山奥にとらわれている理由なんてない!」
「スオウ…ッ!」
「君には自由になる権利がある、あの男は君をだめにする………。俺なら、青樺を自由に出来る」

全ては決まっていた
青樺を連れ出すことが俺の運命だった

「青樺」

そしてその手を引いて歩き出そうとしたとき、後頭部に激しい痛みが走り、目の前が暗転した









「史鋭慶…」

史鋭慶は、刀の鞘でスオウの首筋を打ち彼はその場に気絶した

「気に入らんやつだとは思っていたが、ここまで馬鹿げた事をするとはな」

史鋭慶はその刀を投げ捨てると、スオウに掴まれていた俺の手首を取って

「しかもお前は、またあの男に触らせたな」
「あれは不可抗力だ」
「不可抗力だとしても、許さん」
「ちょっ……」

史鋭慶はまるで清めるように俺の手首に口付けた

「それで、この男はどうするつもりだ」
「里のほうに、返してきてくれるか?二度目はもう、ないから………」

その言葉を予想していたのか、やれやれとため息をついて気絶した彼の身体を担ぎ上げた

「なら、少しの間留守にする」

その言葉が終わると同時に、その場には史鋭慶の姿はなく一陣の風が吹き抜けるだけだった

「行ってらっしゃい」

もう遙か先にいるであろう人にやさしく声をかけて、俺は大きく伸びをする

「さて、俺も仕事をするかな」

目を瞑り、耳を澄ますと、山々のささやきが聞こえる
今日も山は穏やかなようだ








俺が気が付くと、それは麓の村の川原だった

「俺、は……?」
「気が付いたか?」

上半身だけ身体を起こすと、そこには村で始めてあった老人がいた

「よく、あの山から帰ってきただ」

そこで俺は始めて、青樺が一緒にいないことに気が付いた

「そうだ、青樺は?」
「青樺?ここに倒れておったのはお前さん一人だ」
「まさか………」

青樺の手をとって歩き出そうとしたところまでは覚えている
その後、何があったかがまるっきり思い出せない

「行かないと…」
「なんじゃと、もうやめといたほうがええ、これ以上山にかかわることはねぇ」

しかし俺の耳には老いぼれた老人の言葉など届いていなかった

「おい…!!」

遙か遠くで老人の声がした
気が付くと俺の身体は、あの屋敷に向かって走り出していた




俺が行かなければならない
俺が救わなければならない
俺がこの手で
青樺を取り戻さなければならない




「青樺……!!」

必ず自分のものにする

『スオウ………』

頭の奥で、青樺に呼ばれた気がした

「青樺…?」

そう思って立ち止まった瞬間だった
けたたましい鳥の鳴き声が聞こえ
一羽のカラスが俺の目の前を急旋回した

「うわぁ!」

反射的に一歩後ろに下がると、そこには地面がなかった

「あれ?」

身体がふわりと宙に浮かんで、次に重力に引きずられた







グシャ……







頭の奥でイヤな音がしたような気がした

『嗚呼、青樺。早く君の所へ行かないと…………』

そう思って目を開いた俺の瞳に、真っ青な青空が映った















「史鋭慶」
「何だ」
「スオウが、また山に入ってきた」
「性懲りも無く」
「二度目はないって、言ったのに」
「斬りに行くか?」
「多分もう大丈夫だよ」
そう言って青樺はいつものように微笑んだ




「きっともう、死んじゃったから」








Thank you 15,000hit!!
って、こんな黒いのでいいの?


おしまい(笑)



あとがきページへ


お持ち帰りの方へ
特にご連絡等必要ありませんが、著作権は放棄していませんよ(笑)
それだけ了解して頂ければどんな放置プレイして頂いても大丈夫です!
それと改行してあるんで、文章変えなければ改行数はズバズバ削っちゃって下さい(苦笑)
文章を変えなければ、他はだいたい容認します。
最後に


ご迷惑をおかけします(涙)
























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送